不法行為

2026年(令和8年)10月本試験対応

契約がないのに損害賠償!?「誰が責任を負うか」と「時効」を徹底マスター

1不法行為とは何か

不法行為とは、当事者間に事前の契約関係がなくても、故意または過失によって他人に違法に損害を与えた場合に、その損害を賠償しなければならないルールです。売買契約や賃貸借契約で「約束を破った」という話ではなく、赤の他人同士で起こるトラブルを解決するための大原則です。

まずは典型例でつかむ
加害者 A 車を運転していた人 被害者 B ぶつけられた通行人 不注意で衝突 契約はなくても責任発生 → 不法行為による損害賠償

交通事故のように、AとBの間に「事故を起こさない」という契約はありません。それでも、Aが不注意(過失)でBにケガ(損害)を与えれば、不法行為として賠償責任が生じます。

学習のコツ
【学習のコツ】「債務不履行」との違いを意識する

「お金を払ってもらう権利(損害賠償請求権)」が発生するという点では、不法行為も債務不履行も同じです。しかし、債務不履行は「約束(契約)を破った」ことに対する責任であり、不法行為は「契約外の違法な加害」に対する責任です。宅建試験では、この2つのルールの違い(立証責任、時効、過失相殺の違いなど)を比較する問題がよく出ます。

2一般不法行為の成立要件

民法709条が定める基本的な不法行為(一般不法行為)が成立するためには、以下の4つの要件がすべて揃っていることが必要です。

① 故意・過失

わざと(故意)、または不注意(過失)で加害したこと。不可抗力なら責任は負いません。

② 権利・利益の侵害

他人の権利(所有権や生命・身体)だけでなく、「法律上保護される利益」を侵害したこと。

③ 損害の発生

財産的損害(修理代など)や精神的損害(慰謝料)が「実際に」生じたこと。

④ 因果関係

その加害行為があったからこそ、その損害が生じたという「つながり」があること。

注意ポイント
【注意ポイント】証拠を集める「立証責任」は誰にある?

不法行為に基づく損害賠償を請求する場合、「加害者に故意・過失があったこと」や「損害額」を証明(立証)する責任は、原則として被害者側にあります。加害者が「自分には過失がなかった」と証明するわけではありません。※これに対し、債務不履行に基づく損害賠償では、債務者(約束を破った側)が「自分に過失がなかった」ことを証明しなければなりません。この違いが試験で狙われます。

3損害賠償のルールと過失相殺

損害賠償は原則として「金銭」で支払う(金銭賠償の原則)こととされています。また、被害者側にも落ち度があった場合の「過失相殺」のルールが重要です。

損害の範囲(慰謝料・胎児)
  • 財産的損害だけでなく、生命・身体・名誉などを侵害された場合の精神的損害(慰謝料)も請求できます。
  • 被害者が死亡した場合、その父母・配偶者・子は、自己の精神的苦痛に対する慰謝料を直接請求できます(近親者固有の請求)。
  • 胎児は、不法行為に基づく損害賠償請求については「既に生まれたものとみなす」ため、生きて生まれれば請求権を持ちます。
過失相殺(被害者にも落ち度がある場合)
  • 被害者側にも不注意(例:急な飛び出し)があった場合、裁判所は賠償額を減らすことができます。
  • 被害者が幼児の場合、その両親やベビーシッター(被害者側の者)の過失も考慮されます。
  • 【重要】不法行為の過失相殺は、裁判所の裁量で「考慮することができる」です。(※債務不履行の場合は「考慮しなければならない」という違いに注意!)
重要ポイント
【重要ポイント】不法行為による損害賠償債権を受働債権とする相殺の禁止

加害者側から「俺も君にお金を貸しているから、今回の損害賠償金と相殺(チャラに)しよう」と主張することは原則として禁止されています。これは、被害者に確実にお金(治療費など)を受け取らせて保護するため、また、報復的な不法行為を誘発しないためです。※被害者側から相殺を主張することは可能です。

4責任無能力者と監督義務者

幼い子どもや、重度の認知症患者などが他人に損害を与えた場合、誰が責任を負うのでしょうか。ここで「責任能力」という概念が登場します。

責任能力がないときのルールの流れ
責任無能力者 子ども・心神喪失者 本人は原則免責 責任を負わない 監督義務者が責任 親などの法定代理人
未成年者・精神上の障害(712・713条)

自分の行為の責任を弁識するに足りる知能(責任能力)を備えていなかった場合、本人は賠償責任を負いません。※責任能力の目安は概ね12歳前後(小学校卒業程度)とされています。

監督義務者の責任と「免責」(714条)

本人が免責される場合、親などの監督義務者が代わりに責任を負うのが原則です。ただし、「監督義務を怠らなかったこと」または「義務を怠らなくても損害は生じたこと」を証明できれば、免責される余地があります。

5使用者責任・注文者責任

宅建試験の不法行為において、「使用者責任」は毎年必ず出題されると言っても過言ではない超・頻出テーマです。会社員が仕事中に事故を起こした場合、被害者は会社にも損害賠償を請求できます。

使用者責任の基本構造(715条)
会社 (使用者) 社員 (被用者) 被害者 (第三者) 雇用・使用 事業の執行で加害 → 会社にも損害賠償を請求できる!

被害者は、社員(被用者)と会社(使用者)のどちらにも全額の賠償を請求できます(連帯して責任を負う)。会社の免責要件(選任・監督に相当の注意をした等)は条文上にありますが、裁判で認められることはほぼなく、事実上の無過失責任に近くなっています。

重要ポイント
【重要ポイント】会社から社員への「求償権」は全額ではない!

会社が被害者に賠償金を支払った後、会社は事故を起こした社員に対して「立て替えた分を払え!」と請求(求償)することができます。しかし、宅建試験で最も狙われるのはここです。全額を求償することはできず、「事業の性格、勤務条件、予防の配慮などを考慮し、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」においてのみ求償が認められます。※逆に、社員が被害者に全額支払った場合、社員から会社へ逆求償できるとした判例もあります。

※注文者責任(716条)との違い

家を建てるように工務店(請負人)に依頼した「注文者」は、原則として、請負人が工事中に第三者に与えた損害について賠償責任を負いません。ただし、注文や指図について注文者に過失があった場合は例外的に責任を負います。使用者責任(原則責任あり)との違いに注意してください。

6工作物責任

建物の外壁が崩れて通行人がケガをした、飲食店の看板が落ちて客に当たった――このような「土地の工作物の設置・保存の瑕疵」によって生じた損害の責任ルールです。ここも宅建試験で頻出です。

占有者→所有者の二段階で考える
工作物 壁・看板・樹木など ① 占有者 (例:建物の賃借人) ② 所有者 (例:建物の大家) 被害者 通行人など
重要ポイント
【重要ポイント】所有者は「無過失責任」で絶対に逃げられない!

工作物責任は、まず現在使っている「占有者」が責任を負います。しかし占有者が「損害発生を防止するのに必要な注意をしていた」と証明できれば、占有者は免責されます。その場合、責任は「所有者」に移ります。
ここが試験の狙い目です。所有者は、自分に全く落ち度がなかった(過失がなかった)と証明しても、絶対に免責されません(無過失責任)。被害者救済を最優先にするため、最終的に物件のオーナーが責任を取るルールになっています。

7宅建でのひっかけ整理(時効等)

最後に、不法行為による損害賠償請求権が「いつまで請求できるか(消滅時効)」を整理します。民法改正が絡む部分なので正確に押さえましょう。

主観的起算点(知った時から)

被害者またはその法定代理人が、「損害」および「加害者」の両方を知った時から進行します。
・原則(物の損害など):3年
・人の生命または身体の侵害:5年(※法改正で長期化)

客観的起算点(不法行為の時から)

被害者が損害や加害者を知らなくても、不法行為の時から20年経過すると、権利は消滅します。※これは「時効」であるため、中断(更新)などの規定が適用されます。

注意ポイント
【注意ポイント】不法行為のひっかけワード
  • 「使用者は常に責任を負う」 → ×(選任・監督の注意を証明すれば免責の余地あり)
  • 「使用者は被用者に全額求償できる」 → ×(信義則上相当と認められる限度に制限される)
  • 「工作物の所有者は必要な注意をしていれば免責される」 → ×(所有者は無過失責任なので免責されない)
  • 「不法行為の過失相殺は必ずしなければならない」 → ×(「することができる」という裁判所の裁量)

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