「同意」と「取消し」のルールを制し、権利関係の得点源にしよう!
1制限行為能力者とは?(制度の目的)
私たち大人は、不動産を買ったりお金を借りたりする契約を自由に結ぶことができます(これを「行為能力」といいます)。しかし、判断能力が未熟な子供や、認知症などで物事の良し悪しが十分に分からないお年寄りが、悪質な業者に騙されて財産を失ってしまわないよう、民法では特別な保護ルールを設けています。
このように、判断能力が不十分な人をあらかじめ「制限行為能力者」として認定し、保護者(サポート役)を付けるとともに、彼らが一人で勝手に結んでしまった不利な契約を「あとから取り消すことができる」ようにして、その財産を守る仕組みが作られています。
【学習のコツ】4つのパターンを整理する
制限行為能力者には「未成年者」「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」の4パターンがあります。それぞれの「判断能力の程度」と「保護者が持っている権限」の違いを比較しながら覚えるのが得点への近道です。特に「誰が誰に対して何ができるか」を意識して学習を進めましょう。
24つの類型と「単独でできること」
4つのパターンについて、「どんな人が該当するのか」と、「保護者の同意がなくても一人で(単独で)できる契約の範囲」を見ていきましょう。宅建試験では、この「単独でできる例外」が非常によく狙われます。
① 未成年者(みせいねんしゃ)
年齢が18歳未満の者
保護者:法定代理人(親権者や未成年後見人)未成年者が契約をするには、原則として法定代理人の同意が必要です。同意を得ずに一人でした契約は、未成年者本人または法定代理人が取り消すことができます。
【重要ポイント】未成年者が単独でできること(同意不要)
- 単に権利を得る、または義務を免れる行為(例:お小遣いをもらう、借金を免除してもらう)
※負担付贈与(「お使いに行ったらあげる」など義務を伴うもの)は単独では不可! - 法定代理人が「目的を定めて(または定めずに)処分を許した財産」の処分(例:親からもらったお小遣いでお菓子を買う、学費として渡されたお金で学費を払う)
- 一種または数種の営業を許された未成年者の、その営業に関する行為(※この場合、未成年者は営業に関して成年者と同一の行為能力を持ちます)
【注意ポイント】成年年齢の引き下げ
2022年の民法改正により、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。これに伴い、「婚姻による成年擬制(結婚すれば未成年でも成人とみなす)」の制度は廃止されています(現在は男女ともに18歳にならないと婚姻できません)。
② 成年被後見人(せいねんひこうけんにん)
判断能力が「常に欠けている」者
保護者:成年後見人重度の認知症などで、自分ではまったく判断ができない状態の人です。家庭裁判所の審判によって認定されます。
【注意ポイント】成年後見人には「同意権」がない!
成年被後見人は判断能力が全くないため、「これ買っていいよ」と同意を与えても、一人で正しく契約を締結することが期待できません。したがって、成年後見人には「同意権」がありません。たとえ事前に同意を得て契約したとしても、成年被後見人が自ら行った契約は原則として取り消すことができます。
【重要ポイント】唯一の例外(単独でできること)
「日用品の購入その他日常生活に関する行為」(例:スーパーで牛乳や弁当を買う、衣服を買うなど)については、生活の不便を防ぐため、例外的に単独で有効に行うことができ、取り消すことができません。
【注意ポイント】居住用不動産の処分には許可が必要
成年後見人が、成年被後見人の住まいとなっている「居住用建物やその敷地」を売却・賃貸など処分する場合、成年後見人の独断ではできず、家庭裁判所の許可が必要となります。これは本人の生活基盤を失わせないための重要なルールで、宅建試験で頻出です。
③ 被保佐人(ひほさにん)
判断能力が「著しく不十分な」者
保護者:保佐人軽度の認知症などで、日常の買い物などはできるが、不動産の売買など重要な契約を一人でするには不安がある状態の人です。
【重要ポイント】単独でできることと、同意が必要なこと
日用品の買い物などの日常行為は単独で有効にできます。しかし、民法13条で定められた「重要な財産行為」を行うには、保佐人の同意が必要です。同意を得ずにした重要な財産行為は、取り消すことができます。
- 【重要な財産行為の例】
- 不動産など重要な財産の売買、貸借
- お金を借りる(借財)、保証人になること
- 訴訟行為をすること
- 新築、改築、大修繕をすること など
④ 被補助人(ひほじょにん)
判断能力が「不十分な」者
保護者:補助人大抵のことは自分でできるが、特定の難しい契約をする時だけサポートが必要な状態の人です。
【重要ポイント】基本はすべて単独でできる
原則としてすべての行為を単独でできます。ただし、家庭裁判所の審判で「特定の法律行為(例:自宅の売却だけ等)」についてのみ同意が必要と定められた場合に限り、その行為を行う際に補助人の同意が必要となり、同意なしで行うと取り消すことができます。なお、補助開始の審判や、同意権・代理権を与える審判をするには、原則として本人(被補助人)の同意が必要です。
3取消しの効果と第三者への対抗
制限行為能力者が単独で行ってしまった契約を「取り消す」とどうなるのでしょうか。また、すでにその財産が第三者に転売されていた場合はどうなるのかを整理しましょう。
【重要ポイント】取消しは「初めから無効」になる
取り消された行為は、契約の時点にさかのぼって「初めから無効であったもの」として扱われます。そのため、もし代金を支払ったり商品を受け取ったりしていた場合は、お互いに返還しなければなりません(原状回復義務)。
ただし、制限行為能力者は、その行為によって「現に利益を受けている限度」においてのみ返還する義務を負います(生活費に使った分は返還義務あり、遊興費で浪費した分は返さなくてよいという特例があります)。
【注意ポイント】善意の第三者にも対抗できる!
例えば、未成年者AがBに土地を売り、Bが事情を知らないC(善意の第三者)に転売したとします。その後、AがBとの契約を取り消した場合、AはCに対して「土地を返して」と言えるでしょうか?
結論として、制限行為能力を理由とする取消しは、善意・無過失の第三者にも対抗できます(土地を取り戻せます)。取引の安全よりも、判断能力が不十分な人の保護を徹底して優先しているからです。(※詐欺の取消しとは結論が異なるため、宅建試験で引っ掛けとして頻出します)
4【図解】保護者の権限の違い
4つのパターンの「保護者」が、どのような権限(武器)を持っているかを比較します。宅建試験で最も狙われるポイントです。
【重要ポイント】保護者の権限まとめ一覧
| 保護者 | 同意権 「やっていいよ」 |
取消権 「なかったことに」 |
追認権 「あとからOK」 |
代理権 「代わりにやる」 |
|---|---|---|---|---|
| 法定代理人 (未成年の親) |
○ | ○ | ○ | ○ |
| 成年後見人 |
× なし! (同意しても無意味) |
○ | ○ | ○ |
| 保佐人 | ○ (重要財産行為) |
○ | ○ | △ (家裁が定めた 特定の行為のみ) |
| 補助人 | △ (家裁が定めた 特定の行為のみ) |
○ | ○ | △ (家裁が定めた 特定の行為のみ) |
5相手方の保護ルール①(催告権)
制限行為能力者と契約してしまった「相手方」の立場を考えてみましょう。「この契約、あとで取り消されるかもしれない…」と常にビクビクしていなければならず、非常に不安定です。
そこで、相手方には「この契約、そのまま有効にする(追認)のか、それとも取り消すのか、1ヶ月以上の期間を定めてハッキリ返事をしてくれ!」と要求する権利が与えられています。これを「催告権(さいこくけん)」と呼びます。
催告をしたのに「返事がない(確答がない)」場合どうなるか?
催告をしたのに期限までに返事がなかった場合、契約は「追認した(確定的に有効になる)」とみなされるのか、それとも「取り消した」とみなされるのか。「誰に催告をしたか」によって結果が真っ二つに分かれます。
(法定代理人など)
(=契約は有効に確定)
(=契約は無効になる)
【注意ポイント】本人への催告が無効になるケース
「未成年者」と「成年被後見人」に対しては、相手方が本人に直接催告してもその催告自体が無効(意味がない)となります。彼らは催告の意味を理解する能力すら不十分だからです。本人に直接催告できるのは、能力が少しある「被保佐人」と「被補助人」だけです。
6相手方の保護ルール②(詐術)
もし、制限行為能力者本人が「自分は成年だ(能力者だ)」「親の同意をもらってきた」などと相手方を積極的にだました(ウソをついた)場合、どうなるでしょうか。
【重要ポイント】詐術(さじゅつ)を用いた場合
制限行為能力者が、自分が能力者であると信じさせるため、あるいは保護者の同意を得ていると信じさせるために詐術(積極的なウソ・だます行為)を用いた場合、その者はもはや保護に値しません。したがって、その行為を「取り消すことができなくなる(契約は有効に確定する)」というペナルティが与えられます。
【注意ポイント】単に黙っていただけなら?
相手から聞かれなかったから「自分が未成年であることを単に黙っていた」という程度であれば、積極的な詐術には当たらず、原則通り取り消すことができます。取り消せなくなるのは、年齢をごまかして契約書を書いたり、親の同意書を偽造したりする「積極的なウソ(詐術)」があった場合に限られます。
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